熊本のきものお手入れ処 田崎染工です。
日々お着物のお手入れに携わり、今までに少なくとも累計2万枚以上のお着物を直してまいりました。
お手入れと申しましても一枚々しみの状態や程度が異なっており、それこそ「十枚十色」です。
地味な職業ですが、皆さまに当店の仕事の中身と技術力を知っていただきたいという願いを込め、現役のしみぬき職人がお着物のお手入れの舞台裏を写真を交えて綴ってまいります。
今日はタイトルの通り絶対にして欲しくないことについて書いてみたいと思います。
それは
「お客さまがシミ抜きに挑戦すること」です。
お客さまにシミヌキをして欲しくない理由はおもに二つあります。
お客さまがご自分でシミヌキをすることで当店の仕事が減るから、、、、、、そんな理由ではありません。
①生地表面を強くこすってしまうおそれがある。
②何もしていない方が結果的には安くすむ。
という理由からです。
具体例を紹介いたします。
↑もともと1~2ミリほどの小さな黄変のシミがひとつ(白い矢印)でしたが、お客さまがご自分でシミヌキに挑戦され結果的には赤い丸でかこんだ部分に水の輪ジミができてしまいました。
しかも輪ジミはお着物の裏地にまで浸みてしまっていました。
↑最初に水の輪ジミを取ります。
本来であれば不要な手間がここで発生してしまっているのです。
↑次に黄変の色素を除去します。
↑最終的に染料で修整を行います。
最初の小さい黄変ひとつだけであれば、当店ならば千円程度のシミヌキ料金でおさまります。
しかし、今回のように水の輪ジミの処置(表地&裏地)までになると、倍の2千円ほどになってしまいます。
今回のように生地の表面を傷めていないケースは滅多にありません。このお着物は非常にラッキーな事例です。
お客さまがご自身でシミヌキをした場合、たいていは生地がスレてしまっているのです。
人間の皮膚はある程度の擦り傷ならば再生するのでしょうが、
お着物の生地のスレは完全には直りません。
シミヌキ代を安く抑える秘訣は「シミヌキに挑戦しない」です。
次に紹介するのはお客さまがご自身でシミ部分をこすってしまった悪い例です。
↑お客さまがシミ部分を強くこすり過ぎてしまい白くスレてしまっている事例。
↑袖の裏地にまで黒の染料が滲んでしまっています。
↑同じお着物です。 残念なことにスレだけでなく「穴」まで空いてしまっています。
このようになってしまうと完全な修整は困難になります。
絶対にこすらないでください。 m(__)m
お着物の生地のスレは完全には直りません。
↑上前の衽(おくみ)に指の爪くらいの穴です。
このお着物もやはり、お客さまがシミ部分をこすられてしまった事例です。
↑拡大画像
↑斜めから生地を見ると赤い丸で囲んだ範囲がスレてしまっています。
「何とかしてください」との依頼でしたが・・・・・
↑穴の部分の糸のホツレなどを始末し裏から別生地をあてました。
オリジナルの虹色に近い箔を加工するのと裏生地との段差を目立たなくするのに苦労しました。
あれだけの穴でしたので若干の違和感はどうしても否めませんね。 (;´д`)トホホ…
↑ お着物を活かすための苦肉の策です。
本来ならばきれいに修整できるシミであったんだろうとは思います。
穴が空く前に処置させていただきたかったな、、、、というのが本音です。
このような事態にならぬよう
「お客さまによるシミヌキ」は絶対にしないでください。
それが、
お客さまに良し、
私ども職人にも良し、
そして、、、、、、、
何よりお着物にも良しの「三方に良し」だと思います。
しみぬき、お着物のお手入れはぜひ当店にご相談ください。
最後まで読んでいただきましてありがとうございました。