熊本のきものお手入れ処 田崎染工です。
日々、和服のお手入れ・メンテナンス業務に携わり、今までに少なくとも累計2万枚以上のお着物を直してまいりました。
一言で「お手入れ」と申しましても、一枚々しみの状態や程度が異なっており、それこそ「十枚十色」です。
地味な職業ですが、皆さまに当店の仕事の中身と技術力を知っていただきたいという願いを込め、現役のしみぬき職人の仕事の舞台裏を写真を交えて綴ってまいります。お着物に関するさまざまなご相談ごとなどお気軽にお電話ください。

今日は、とてもお問い合わせの多い「寸法直し」に関する投稿です。
その中で一番多いのが「裄直し」です。

簡単に説明するならば、裄=肩巾+袖巾 になります。
現代人は昔の人よりも手足が長くなってきていますので
昔のお着物を譲り受けたときに、裄の寸法が足りない場合がけっこうあるのです。
そのようなときは縫い代部分に生地の余裕があれば寸法を伸ばすことができます。

ただし注意すべき点もいくつかあるので、具体例を交えて記載しておきます。

☆裄出し時の注意点と対策☆

①元筋(折れ目)部分にキツイ折れシワが残っている
 ↪ アイロンや蒸気などでシワを取ります。

②元筋(折れ目)部分に長年にわたるヨゴレや色の欠損がある
 ↪ 部分洗いや色修整をおこないます。

③縫い代に隠れていた部分との色の差(色ヤケ)がある
 ↪ 色ヤケ修整をおこないます。

④予想よりも縫い代部分が少く、ご希望の寸法に足りない
 ↪ お客さまのご了承をいただいたのち、限度いっぱいいっぱいまで裄を伸ばします。

 

add_text6

add_text5

↑袖と身頃を離したところです。
   袖側、身頃側にきつい折れシワが残っています。
 裄出し時の注意点と対策①の例です。

 

resized_04

↑蒸気、水、コテなどを用いてシワを伸ばしていきます。
 両袖の前後+両身頃の前後の処置ですのでけっこうな時間を要します。

 

add_text

↑別のお着物ですが、元筋(折れ目)の色が欠損している事例の写真です。
 修整をしないといけません。
 裄出し時の注意点と対策②の例です。

add_text2

↑元筋部分(折れ目)に染料で修整をおこないました。

 

add_text3

↑矢印より右がわの部分が長年にわたる太陽光や蛍光灯により色ヤケしてしまっています。
 矢印より左がわの部分がオリジナルの元色です。
   ヤケ修整が必要です。
 裄出し時の注意点と対策③の例です。

 

add_text4

↑損なわれた色を補い、修整をおこないました。

 

add_text7

↑裄出し後

add_text

↑当店がしみぬきでお預かりしたお着物。
 他店さまで裄出しされているようですが「元筋の処理」がなされていません。

add_text03

↑上と同じお着物です。拡大画像
 赤い矢印の箇所は裄を出す前の「ヘラ」の跡です。

add_text02

↑このお着物は身丈も出してあるようです。同様に「ヘラ」の跡が残っています。
 これ位ならば気にせず着用される場合もあるかもしれませんが、私ならば「気になります」。
 寸法を出す場合にはくれぐれもご注意ください。
 元筋の修整は最終的に縫い上げる前に済ませる方がベターですよ。

【当店での裄直し料金】 ※修整にかかる費用と消費税は含んでおりません。
通常のお着物 5,000円~
留袖・振袖  7,000円~