熊本のきものお手入れ処 田崎染工です。
日々、和服のお手入れ・メンテナンス業務に携わり、今までに少なくとも累計2万枚以上のお着物を直してまいりました。
一言で「お手入れ」と申しましても、一枚々しみの状態や程度が異なっており、それこそ「十枚十色」です。
地味な職業ですが、皆さまに当店の仕事の中身と技術力を知っていただきたいという願いを込め、現役のしみぬき職人の仕事の舞台裏を写真を交えて綴ってまいります。お着物に関するさまざまなご相談ごとなどお気軽にお電話ください。

今年の上半期(1月~6月)を振り返ってみて、おそらく一番手間がかかった一枚です。

実は数年前に当店がしみぬきの見積もりをいたしましたが、加工までには至りませんでした。
今回、ふたたび当店にお持ちになられました。

しみぬき前

しみぬき前

 

↑表側のbefore画像です。

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↑背中側のbefore画像です。

少なくとも30年以上は前の品物です。
水で洗っても油性で洗っても全然薄くもなりません。
表も裏もかなり黄変がひどい状態です。
薄いベージュ色のあらゆる箇所に黄変が出ており、黒い部分にもたくさんの茶褐色の変色があります。
全部で数百箇所をしみぬきする必要があります。

ここ10年くらいのことですが、
「高くなってもいいので、自分がお宮参りに着用した着物を子どもに着せてあげたいんです」
とおっしゃる親御さんが増えました。
現代の熱圧縮加工のベッタリした金銀箔だらけの製品とは一線を画し、古さの中にも味わいと趣きが独特の存在感を醸し出しています。
このような古い品を引き継いでお召しになろうという心意気には共感いたします。
一人の職人として最善を尽くしてみたいと思いました。

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↑右前袖のbefore→after

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↑上前のbefore

 

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↑上前のafter画像です。
白に見えるかもしれませんが実際は薄いベージュです。

 

 

 

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表も裏もきれいになりました。
画像にはありませんが、しみぬきの他にも
丸洗い(当店通常料金4,000円=のしめ上着単品の場合※税別)
黒場の色抜けと変色部分の修整
紋の変色修整
金彩部分の直しも加工いたしました。

この事例のような古い「熨斗目」のしみぬきは個人的に好きで得意にしています。

今回はお客さまのご予算が、丸洗い+しみぬき=50,000円(税込み)以内でとのことでした。
正直3、4日以上は費やしましたが、予算内で収まるように努めます。(笑)